建築

ノマディック美術館【坂茂】

ノマディック美術館とは?

photo by Paolo Mazzoleni/CC BY 2.0/

ノマディック美術館は、写真家グレゴリー・コルベールの作品を展示するために建てられた、移動式美術館である。

ノマディックとは?
モンゴルの遊牧民が使用する移動式住居「ゲル」

nomadicは、日本語で「遊牧の、放浪の」などの意味を持つ。

遊牧民族のことを「nomadic tribe」という。

このことから、ノマディック美術館とは放浪する美術館を意味する。

設計を務めたのは、世界的に活躍する日本の建築家坂茂。

設計コンセプト「移動する建物」

このコンセプトを基に、モンゴルの遊牧民の移動式住居「ゲル」のように、あらゆる場所に移動しながら展示を行う美術館を作り出している。

たけひこ
たけひこ

そんな、移動式建築「ノマディック美術館」の特徴をご紹介します!!

坂茂とは?

  • 1957 東京に生まれる
  • 1977 南カリフォルニア建築大学
  • 1980 クーパー・ユニオン建築学部
  • 1982 磯崎新アトリエに在籍
  • 1985 坂茂建築設計設立
  • 1999 ニューヨークに事務所開設
  • 2004 パリに事務所開設
  • 2014 プリツカー賞受賞

坂茂とは、日本・パリ・ニューヨークに3つの設計事務所を持ち、世界中で活躍されている建築家である。

代表作としては、「静岡県富士山世界遺産センター」「ポンピドゥーセンターメス」「紙のカテドラル」などが挙げられる。

坂茂と紙管

坂茂氏は、トイレットペーパーの芯などに用いられる「紙管」を建築に用いることでも知られている。

「紙管」は、紙製であるためどこでも生産できるという利点を生かし、被災地などの仮設建築に利用されている。

建築の特徴

photo by Paolo Mazzoleni/CC BY 2.0/

ノマディック美術館の建築的特徴としては、次のような点が挙げられる。

  1. 世界各地を移動する美術館
  2. 「レンタル」「リユース」「リサイクル」材からなる建築
  3. 平行に配された100mの2棟構成
  4. 市松模様に積まれた主要構造「コンテナ」
  5. 教会のような展示空間をつくる「紙管」
  6. 2棟の展示空間の間に設けられたシネマ

世界各地を移動する美術館

ニューヨークのハドソン川に建てられた「ノマディック美術館」
photo by Salim Virji/CC BY-SA 2.0

ノマディック美術館は、一つの場所に恒久的に建設される美術館ではなく、世界各地のあらゆる場所に移動しながら展示をしている美術館である。

ノマディック美術館の移動遍歴
  1. ニューヨーク(2005年3月)
  2. カリフォルニア(2006年3月)
  3. 東京 お台場(2007年3月)
  4. メキシコシティ(2008年1月)
  5. ブラジル(2009年)
  6. ・・・

このように、約1年を周期として世界各地を放浪している。

2009年以降の情報は定かではありませんが、今もなお、世界のどこかを放浪しているとかいないとか。

「レンタル」「リユース」「リサイクル」材からなる建築

photo by ikm/CC 表示-継承 3.0

移動式建築であるノマディック美術館は、「レンタル」「リサイクル」「リユース」された材料によって構成される。

レンタル材

建物の主要構造体となる6mの「コンテナ」は、敷地周辺でレンタルしたものである。

リサイクル材

展示空間に並ぶ「紙管の柱」は、紙をリサイクルして、その地域の紙管工場で作り出している。

リユース材

屋根に用いられる、「アルミフレーム」「膜材」「床用の木製パネル」などは、前回の会場から持ってきてリユースしている。

これらの環境を環境にも配慮された材料によって、ノマディック美術館の移動が可能となっている。

平行に配された100mの2棟構成

photo by ikm/CC 表示-継承 3.0

東京お台場に建てられたノマディック美術館は、長さ100mで切妻屋根の建物が横に2つ並んだ構成をしている。

そして、この2棟の間にも膜屋根が設けられ、両棟を一体的に繋いでいる。

ニューヨークに建てられたときは、ハドソン川の橋の形に合わせて長さ205mの1棟構成だったようだ。

市松模様に積まれた主要構造「コンテナ」

photo by Paolo Mazzoleni/CC BY 2.0

建物外壁は、現地で調達したコンテナが4層分、市松模様状に積み重ねられている。

市松模様
市松模様

市松模様を用いた理由は、建物の部材数と荷重を最小限にするためだった。

その結果、お台場では152台、ニューヨークでは148台のコンテナが使用された。

さらに、コンテナは非常に頑丈であり、2.2トンのコンテナに対して30トンまでの荷重に耐えられるため、本美術館の主要構造材として利用されている。

ちなみに、コンテナの間には塩化ビニール膜が張られ、夜になると中の光が淡く外観に現れる魅力的な構成となっている。

教会のような展示空間をつくる「紙管」

photo by Paolo Mazzoleni/CC BY 2.0

約100mの展示空間に並ぶ柱は、内径700mm、厚さ20mm、長さ約10mの「紙管」でつくられている。

この太い紙管が、小さいスパンで並べられている展示空間は、まるで西洋の神殿のような荘厳な空間となっている。

ちなみにこの紙管は、あくまでデザイン的なものであり、構造材としては外のコンテナがすべてになっている。

2棟の展示空間の間に設けられたシネマ

photo by Paolo Mazzoleni/CC BY 2.0

2つのギャラリー棟の間に広がるシネマ空間は、コンテナに囲われ、床は木材でできた不思議な空間となっている。

大スクリーンの前には、上の写真のように「紙管でできた椅子」も並べられている。

このシネマでは、インドやエジプトなどで撮影され、人間と動物の交流をモノクロ映像で上映していたそう。

建築概要

  • 所在地:東京都江東区青海1
  • 竣工 :2007年3月
  • 用途 :美術館
  • 構造 :鉄骨造
  • 高さ :17.19m
  • 階数 :地上1階
  • 設計 :坂茂建築設計
  • 構造 :アラップジャパン
  • 施工 :TSP太陽

最後に・・・

以上がノマディック美術館の特徴でした。

「移動する建築」という、とんでもない発想を実現する環境にも配慮された構成が魅力的な建築だったと思います。

たけひこ
たけひこ

今後、ノマディック美術館が再び日本で建てられるといいですね!!

ご覧いただきありがとうございました。

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