クンストハル美術館(ロッテルダム芸術ホール)とは?
- 設計:レム・コールハース/OMA
- 住所:オランダ・ロッテルダム
- 竣工:1992年
- 用途:美術館
クンストハル美術館(別名:ロッテルダム芸術ホール)は、世界屈指の湾港都市として知られるオランダ・ロッテルダムに建つ美術館建築である。
建築の設計は、ロッテルダム出身の世界的建築家「レム・コールハース(OMA)」が担当。
この美術館最大の特徴は、なんといっても「傾斜するスラブ」にある。
通路に傾斜を持たせスロープにするという設計手法はいろんな建築で採用されている。しかし、クンストハル美術館のように、スラブ(床)全体に傾斜を持たせた建築はいまだかつて存在しなかった。
外観だけ見るとまるでモダニズム建築のような箱型をしているのにもかかわらず、建物内部にはモダニズムの均質空間とはかけ離れた、傾斜する空間が生み出されているのである。
このモダニズムを批判するような建築作品は、世界に衝撃を与えた。
クンストハル美術館の建築的特徴
オランダ第二の都市・ロッテルダムに建つ美術館
首都アムステルダムに次いで、人口第二位を誇るオランダの都市「ロッテルダム」。
世界屈指の貿易港「ロッテルダム港」を有するこの街は、16世紀ごろから貿易によって急激に発展していき、今や港湾都市として世界にその名を轟かせている。
そんなロッテルダムの中心部に建つ「クンストハル美術館」は、ロッテルダム出身の世界的建築家「レム・コールハース」の代表作として知られている。
レム・コールハース(OMA)の代表作
前衛的な建築作品で現代建築界を牽引する世界的建築家「レム・コールハース」。
1975年にコールハースが設立した建築設計事務所「OMA」は、今やロッテルダム・ニューヨーク・北京・香港という4つの大都市に拠点を置き、世界最大級の建築事務所として知られている。
クンストハル美術館は、そんなオランダを代表する建築家レム・コールハースの代表作として知られる建築作品である。
モダニズム建築のような反モダニズム建築
クンストハル美術館の外観は、一見するとモダニズム建築のようにも見えるシンプルな構成となっている。
公園側に面したファサードは、ル・コルビジェの代表作「サヴォア邸」のようにも見えるし、一方で道路側のファサードは、ミース・ファン・デル・ローエの代表作「ファンズワース邸」のようにも見える。
このような、モダニズム的なファサードをしているにもかかわらず、この建築は反モダニズム建築と言われている。
その理由は、建物内部のスラブにある。
既成概念を覆す傾斜するスラブ
西側ファサードにも顕著に現れているが、建物内部には傾斜するスラブが存在している。
これは通路が傾斜してスロープになっているわけではない。
あくまで、スラブ(床)全体が傾斜して、坂のようになっているのである。
これは明らかな、モダニズムへの挑戦状である。
モダニズム建築っぽい箱型のファサードで「僕はモダニズムの仲間だよ」と油断させておいて、実は内部にモダニズムが追求した均質空間とはかけ離れた傾斜空間を作ってしまっているのである。
ル・コルビジェもボディブローを食らったことだろう。
傾斜するスラブに設置されたカラフルな椅子
クンストハル美術館を特徴づける傾斜するスラブの上には、カラフルな配色をした椅子が無数に設置されている。
もちろん座ってくつろぐこともできるが、これもアート作品の一種なのだろう。
床が奥に行くにつれて上昇しているため、かなりの奥行きを感じる。
構造体が見え隠れする展示空間
クンストハル美術館は、傾斜したスラブが印象的過ぎるため、その他の空間が忘れられがちだが、実は展示空間にも変わった特徴がある。
通常、美術館の展示室は、作品鑑賞の邪魔にならないようにホワイトキューブと呼ばれる純粋な空間として展開される。
クンストハル美術館でも、基本はホワイトキューブを土台としているようだが、天井を見上げるとオレンジ色の梁材が露出していることがわかる。
さらに、他の展示空間では、斜めの柱が展示室内に貫通していたりもする。
この構成も、モダニズムに対する挑戦状なのだろうか。
建物内を貫通する別の傾斜道
クンストハル美術館の傾斜した床は、建物内部のスラブだけとは限らない。
クンストハル美術館の北側には「Museumpark」と呼ばれる公園、南側には「Westzeedijk」と呼ばれる道路が接しているのだが、その両者には高低差がある。
そして、その両者の高低差をつなぐようにして、クンストハル美術館の建物内部には傾斜した通路が貫通している。
この傾斜道はもちろん、公園と道路の結節点になっているのだが、それと同時に街とクンストハル美術館の結節点にもなっているのである。