前川國男とは?
- 1905 新潟県に生まれる
- 1928 東京帝国大学工学部建築学科卒業
- 1928 ル・コルビュジエの事務所に勤務
- 1930 レーモンド建築事務所に入所
- 1935 前川國男建築設計事務所設立
- 1986 死去(81歳)
前川國男は、近代建築の父「ル・コルビュジエ」の下で建築を学び、日本モダニズム建築の先駆者として、戦後の日本建築界をリードした建築家である。
代表作としては「自邸」「東京文化会館」「東京都美術館」などが挙げられ、特に美術館建築を数多く手がけている印象が強い。
また、前川國男建築の特徴としては、コンクリートに直接打ち込んだ「赤レンガ風タイル」を外壁仕上げに使用することが多く、もし街中で趣のある赤レンガ風仕上げの建物を見たら、かなりの確率で前川國男が設計を務めているだろう(笑)。
今回は、そんな日本建築界をリードした建築家「前川國男」の建築作品16選をご紹介したいと思います。
【代表作】建築家前川國男の建築作品16選
1.自邸
- 住所:東京都品川区上大崎
- 竣工:1942年
- 用途:別荘・茶室
- URL:参考ページ
この建築は、第二次世界大戦下である1942年に、前川國男の自邸として建設された住宅建築である。
外観としては、「切妻屋根」や「雨戸」などで日本伝統様式を踏襲しているが、内部ではモダニズム的な大胆な空間配置がなされており、戦後主流となる「日本伝統×モダニズム」という組み合わせが早くもこの自邸で試みられている。
前川國男の自邸は、1973年に解体され、解体材の状態で軽井沢の別荘に保管されていたが、後に「江戸東京たてもの園」に寄贈され、1996年に園内に再建された。
2.東京文化会館
- 住所:東京都台東区上野公園5-45
- 竣工:1961年
- 用途:コンサートホール
- URL:建築詳細ページ
東京文化会館は、上野公園の一角に所在する、クラシック音楽のコンサートなどを行う目的に建設されたコンサートホールである。
この建築の最大の特徴は、圧倒的広さを持った「ホワイエ・ロビー空間」である。
コンクリートのお盆が乗ったかのような外観を持つ建物の中に入っていくと、2枚目の写真にあるような圧倒的大空間が広がっており、まるでお祭り騒ぎかのような賑わいを作り出している。
さらにこの建築は、前川國男の師匠であるル・コルビュジエが設計した「国立西洋美術館」と対面する位置に立っており、軒高やガラス窓の位置は、師匠の美術館に合わせて設定されているのが面白い。
建築詳細ページ
3.東京都美術館
- 住所:東京都台東区上野公園8番36号
- 竣工:1975年
- 用途:美術館
- URL:建築詳細ページ
東京都美術館は「都民のための美術の振興を図る」ことを目的に、上野公園内に建設された都立美術館である。
施設全体としては、建物中央に広大な「中央広場」が設けられており、その広場を取り囲うようにして、企画・常設ブロック、公募展示ブロック、文化活動ブロックの3つが分散配置されている。
前川國男が設計する公共施設では、広場やロビー、ホワイエといった人々が集う場が重視される傾向が強く、この東京都美術館はその性質を持った顕著な例である。
建築詳細ページ
4.東京海上日動ビルディング本館(現存せず)
- 住所:東京都千代田区丸の内一丁目2番1号
- 竣工:1974年
- 用途:オフィスビル
- URL:参考ページ
東京海上日動ビルディング本館は、前川國男が設計した「唯一の高層ビル」として知られる、皇居のすぐ目の前に建つオフィスビルである。
この建築は計画当初、高さ約130mの超高層ツインタワービルとして計画されていたが、「皇居のすぐ近くに皇居を見下ろせるビルを建てるのは不敬」という意見が相次ぎ、最終的には高さ約100mに修正されて竣工された。このような経緯から、日本都市計画の歴史を物語った重要な建築物とも知られている。
しかし、このビルは老朽化などの原因から、2022年10月に解体が開始されてしまった。
解体後は、世界最大規模の木材を使用する「木造ハイブリッド構造の建物」が、世界的建築家レンゾ・ピアノと三菱地所設計の共同設計によって完成する予定である。
5.福岡市美術館
- 住所:福岡県福岡市中央区大濠公園
- 竣工:1979年
- 用途:美術館
- URL:公式ページ
福岡市美術館は、22万平方メートルの大池を有した大濠公園の敷地内に建つ、市立美術館である。
建築最大の特徴は、前川國男建築特有の「赤レンガ風タイル」で埋め尽くされ外壁と、空間を包み込むようななめらから曲面を持つボールト屋根による荘厳な空間構成である。
2019年には、新しいアプローチ空間設けるなど、街との親和性がより高められた建築としてリニューアルオープンを果たしている。
6.宮城県美術館
- 住所:宮城県仙台市川内元支倉34
- 竣工:1981年
- 用途:美術館
- URL:参考ページ
宮城県美術館は、1981年に竣工した、宮城県仙台市青葉区川内元支倉に建つ県立美術館である。
この建築最大の特徴は、建物中央に設けられた「大きな中庭」とその中庭を取り囲う「回廊空間」である。
このような中庭と回廊という組み合わせは、ヨーロッパの古代建築などによく見られる構成だが、日本でこの空間を作り出している例はあまり多くない。
7.新潟市美術館
- 住所:新潟県新潟市中央区西大畑町5191番地9
- 開館:1985年
- 用途:美術館
- URL:参考ページ
新潟市美術館は、1985年に開館した、新潟市中央区西大畑町に建つ市立美術館である。
前川國男建築には「赤レンガ風タイル」を使用した作品が多いが、ここでは「オリーブ・グリーン色のタイル」が使用されており、あらゆる季節の風景に馴染みつつ、年を経るごとに味が出てくる魅力的な外観となっている。
また、この建築は前川國男が亡くなる前年に開館しており、前川國男最晩年の作品としても知られている。
8.山梨県立美術館
- 住所:山梨県甲府市貢川1-4-27
- 開館:1978年
- 用途:美術館
- URL:参考ページ
山梨県立美術館は、山梨県甲府市貢川にある「芸術の森公園」内に建てられた県立美術館である。
建築としては、前川國男の師匠ル・コルビュジエの『サヴォア邸』を想起させるようなピロティ空間が特徴的。
一方で、外壁には前川國男お得意の「赤レンガ風タイル」が使用されており、コルビュジェと前川國男が共演したような一作となっている。
9.石垣市民会館
- 住所:沖縄県石垣市浜崎町1-1-2
- 竣工:1986年
- 用途:劇場(多目的ホール)
- URL:参考ページ
石垣市民会館は、沖縄県石垣市(石垣島)に建つ劇場施設である。
建築としては、大ホールと中ホールが分棟形式で配置されており、その2つの棟を接続する部分に、2枚目の写真に映る「半屋外のピロティ空間」が設けられている。
さらに、建物外壁には前川國男がよく使用する「赤レンガ風タイル」がコンクリートに打ち込まれており、建物を塩害などから保護する役割を果たしている。
10.熊本県立美術館
- 住所:熊本市二の丸二番
- 竣工:1976年
- 用途:美術館
- URL:参考ページ
熊本県立美術館は、熊本城二の丸公園の敷地内に建つ県立美術館である。
この美術館には、サンクガーデンや広場、テラスなど複数の屋外空間が、分棟式の建物の間を縫うようにして配置されているため、建物内にいても常に外部を感じられるような魅力的な空間が形成されている。
さらに、内部に設けられた広いロビー空間も特徴的で、前川國男建築特有の「赤レンガ風タイル」と「格子状の堀の深い天井」に囲まれた、落ち着く居心地のいい空間となっている。
11.弘前市立博物館
- 住所:青森県弘前市下白銀町1−6
- 開館:1977年
- 用途:博物館
- URL:参考ページ
弘前市立博物館は、青森県弘前市にある「弘前公園」内に建設された市立美術館である。
弘前公園内には「弘前城」や同じく前川國男が設計した「弘前市民会館」などが建っており、それらの建築物との関係性などを配慮して本施設が設計された。
建築としては、ピロティや赤レンガ風タイル、広いロビー空間など、前川國男らしさが存分に発揮された作品となっている。
12.京都会館(現・ロームシアター京都)
- 住所:京都府京都市左京区岡崎最勝寺町13番地
- 竣工:1960年
- 用途:劇場
- URL:参考ページ
京都会館は、京都市左京区岡崎最勝寺町に建つ劇場施設である。
この建築は、日本モダニズム建築の最高傑作としても知られており、コンクリートを使用し、水平性を強調した外観がスタイリッシュな作品となっている。
また、前川國男が公共建築で常に重視している「ロビー・ホワイエ・中庭」といった公共空間もふんだんに取り入れ、都市との親和性の高い空間が形成されている。
また、この施設は2016年に、中庭やピロティなどの全体構成はそのままに、一部保存修復や内部機能の一新などを図り「ロームシアター京都」としてリニューアルオープンしている。
13.国際文化会館
- 住所:東京都港区六本木5丁目11番16号
- 竣工:1955年
- 用途:国際文化交流施設
- URL:公式ページ
国際文化会館は、東京都港区六本木という「夜の街」というイメージを持ちつつ、美術館や緑も混在した特異な街に建つ「文化交流施設」である。
この建築は、吉村順三・坂倉準三・前川國男という、日本建築界の巨匠3人によって設計された。
建築としては、モダニズム建築を象徴するようなスタイリッシュな構成の建物と、その前面に広がる池を持った庭園が特徴的で「日本の伝統」と「モダニズム」が掛け合わされたような施設となっている。
国際文化会館は、2006年に「登録有形文化財」に指定されており、その価値は国からも正式に認められている。
14.ケルン市立東洋美術館
- 住所:ドイツ・ケルン
- 竣工:1977年
- 用途:美術館
- URL:参考ページ
ケルン市立東洋美術館は、1977年ドイツ・ケルンに建設された、東アジア美術を専門的に取り扱う美術館である。
海外でも、前川國男はぶれない。
前川建築特有の「赤レンガ風タイル」で外装を仕上げており、さらに分棟式に分かれた建物の中央には、前川國男の美術館建築でよく見かける「大きな中庭」が配置されている。
15.埼玉県立博物館(現・埼玉県立歴史と民俗の博物館)
- 住所:埼玉県さいたま市大宮区高鼻町4-219
- 竣工:1971年
- 用途:博物館
- URL:参考ページ
埼玉県立博物館は、埼玉県さいたま市・大宮公園内に建つ、歴史・民族などを総合的に扱う博物館である。
この建築は、分棟式の建物が大きな中庭を囲うように配置されており、その中庭にエントランスが設けられている。
つまり、来場者は中庭へ続く回遊動線を通ってまず中庭へアプローチし、その後館内に足を踏み入れるわけである。
このような、来場者の好奇心を引き出すような空間構成は、前川國男建築でよく見られる。
16.日本万国博覧会鉄鋼館(現・EXPO’70パビリオン)
- 住所:大阪府吹田市千里万博公園10番10号
- 竣工:1970年
- 用途:パヴィリオン(現・記念館)
- URL:参考ページ
日本万国博覧会「鉄鋼館」は、1970年に日本で開催された大阪万博で、日本鉄鋼連盟が前川國男に設計を依頼し出展したパビリオン施設である。
大阪万博で出展された他の施設は、基本的に万博のためだけに建設された仮設の建築だったが、この鉄鋼館は、恒久利用を想定して建設され、現在は大阪万博の記念館として「EXPO’70パビリオン」という名で親しまれている。
建築としては、「H型鋼で構成された柱梁」と「コンクリート壁」の対比が何ともスタイリッシュで、迫力のある作品となっている。
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今回はこれで以上になります。
今回ご紹介した建築は、前川國男が設計した建築のほんの一部です。
そのため、今後も随時情報を更新していきたいと思っています。
気が向いたら、また本記事をご覧ください。
ではまた。