海の博物館とは?

海の博物館は、三重県鳥羽市の浦村湾沿いに建つ博物館である。
収蔵庫、展示棟、カフェテラスなどからなり、それらが複数の棟に分かれて広い敷地に分散配置されている。
設計を務めたのは、建築家内藤廣。
内藤廣はこの作品で日本建築学会賞作品賞を受賞、これをきっかけとして日本で活躍していくこととなる。
そんな、鳥羽市立海の博物館の特徴をご紹介します!!
内藤廣とは?
- 1950 横浜市に生まれる
- 1974 早稲田大学理工学部卒業
- 1976 早稲田大学大学院修了
- 1979 菊竹清訓建築設計事務所勤務
- 1981 内藤廣建築設計事務所設立
- 2003 東京大学教授
内藤廣とは、多くの公共建築や文化施設などを手掛ける、日本を代表する建築家である。
代表作としては、「とらや赤坂店」「島根県芸術文化センター」などが知られ、屋根天井などに木材をふんだんに使用した建築を多く手がける。
また、建築に関する著書も多く手がけており、文筆家・思想家としても知られている。
建築の特徴




海の博物館の建築的特徴としては、次のような点が挙げられる。
- 複数の棟からなる博物館
- 2万点以上の漁の道具などを収める『収蔵庫』
- 2棟に分かれた『展示棟』
- 驚異的な省エネ建築
- 繁忙期に現れる池
複数の棟からなる博物館




海の博物館は、複数の棟に機能が分散配置された構成となっている。
- 収蔵庫a棟「網、紙、布などを収蔵」
- 収蔵庫d棟「桶、樽󠄀、漁具などを収蔵」
- 収蔵庫e棟「船を収蔵」
- 展示棟A「海に関する展示」
- 展示棟B「道具や船などの展示」
- カフェテラス
- 体験学習館
2万点以上の漁の道具などを収める収蔵庫




- 中央「風除室」
- 左「d棟」
- 右「a棟」
- 奥「e棟」
1985年、2万点以上ある収蔵品の中から、6879点が国の「重要無形民俗文化財」に指定されたことをきっかけに建設された収蔵庫。
a棟、d棟、e棟の三つの棟で構成される収蔵庫は、三棟の中央に配置された風除室によって一体性が作り出されている。
さらに、入館者や博物館職員など、すべての人に親しまれるようにと、複数の棟からなる海の博物館の中央に収蔵庫を配置している。
環境と一体になった建築




海の博物館は、海と山に囲われた特殊な環境であるため、塩害対策など、周辺環境を考慮した計画を基に建設されている。
具体的な対策としては、、、
- 耐久性、低価格、塩害対策などを考慮した瓦屋根
- 外壁を雨から守る深い軒
- 潮風から建物を保護する植栽
このような構成によって、耐久性のある建築が作り出されている。
時間に耐えるファサード




塩害対策などを考慮した結果生まれた建物は、非常にシンプルな構成になっている。
しかし、このシンプルな構成にも設計者である内藤廣氏の考えが隠れている。
象徴性のある建物は、瞬間的なインパクトはあるが、時間の経過とともにその効果は弱まっていく。
一方、この収蔵庫は、時間が経過しても飽きられることはなく、むしろ徐々に味が出てくる。
この考え方はまさに、「時間に耐える建築」である。
柱のない大空間




三つの収蔵庫のうち、a棟とd棟は一般公開されておらず内部を見ることはできないが、e棟のみ一般公開されている。
そのe棟の内部空間は、プレキャスト・コンクリート造による天井架構によって、柱のない大空間となっている。
この柱のない大空間は、館長からの唯一の注文であり、それに対して見事な解答となる魅力的な空間がつくられている。
2棟に分かれた展示棟




1987年に完成した収蔵庫。
その後、1992年には二つの展示棟が開館し、こちらは観光客が自由に出入りできる開かれた建築になっている。
この二つの展示棟は、外通路を介して繋がっており、間には池も設けられている。
収蔵庫とは対照的な黒いファサード




白を基調とした収蔵庫とは対照的に、黒を基調とた展示棟。
この黒い外壁は、スギ板を縦横2重に張ったうえで、コールタール塗装がなされている。
木材の防腐剤として用いられる黒色の油状液体。石炭を乾留することで得られる。
この黒い外壁は、収蔵庫と展示棟を差別化しながらも、「時間に耐える建築」を実現した構成となっている。
木造による大空間




さらに、展示棟の内部空間は、収蔵庫e棟と類似した天井架構によって大空間が形成されているが、こちらではすべてが木材によって構成されている。
この有機的な木造架構は、本博物館の館長と内藤廣氏でアメリカ旅行に行った際、自然史博物館で見た蛇の骨格模型からアイデアを得たという。
この木造架構によって、収蔵庫とは異なり親しみやすい温かみのある内部空間が形成されている。
驚異的な省エネ建築




海の博物館の収蔵庫では、コストなどの面から人工的な空調は全くしておらず、自然換気のみで内部環境を調節している。
それだけでなく、展示棟でもほとんど人工的な空調は行っていないという。
これはさすがに夏場は暑くてたまらないらしいが、その代わりに併設しているカフェテラスでは完全冷房とし、観光客が一休みできる空間となっている。
繁忙期に現れる池




二つの展示棟に挟まれるようにして存在する池は、繁忙期のみ水が張られ、それ以外の時期では通常の広場のようになる。
池に水を入れるのに1回で20万円ほどかかり、さらに夏はすぐに水が蒸発してしまう。
お金のない海の博物館では、人工空調を取り入れないほど省エネ対策をしているため、池も観光客が多く訪れる繁忙期のみに水を張っているそう。




池には、上の写真のようなオブジェが設置されている。
これは、彫刻家である小清水漸さんの作品であり、池に水が張ると、作品が水に浮かぶ大きな葉っぱのように見える。
建築概要
- 所在地:三重県鳥羽市浦村町
- 竣工 :1992年
- 用途 :博物館、収蔵庫など
- 構造 :木造、PC造、RC造
- 設計 :内藤廣建築設計事務所
- 施工 :鹿島建設、大種建設
- 構造 :構造設計集団
施設概要
- Tel :(0599)32-6006
- 休館日 :6月26〜30日、12月26〜30日
- 営業時間:3~11月(9〜17時)12~2月(9~16:30)
- アクセス:「鳥羽駅」よりタクシーで約20分
- URL :http://www.umihaku.com/index.html
- 料金 :
大人(18歳以上) | 大学生以下 | |
個人 団体(20~99名) 団体(100名以上) | 800円 720円 640円 | 400円 320円 280円 |
最後に・・・
以上が海の博物館の特徴でした。
周辺環境を考慮したシンプルな構成と、内部の大空間をつくる有機的な架構が印象的な建築だったと思います。
三重県を訪れる際は是非、海の博物館に立ち寄ってみてください!!
ご覧いただきありがとうございました。
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