聖ベネディクト教会とは?
- 設計:ピーター・ズントー
- 住所:スイス・スンヴィッツ
- 竣工:1989年
- 用途:教会
聖ベネディクト教会は、山々に囲まれたスイスの小さな村・スンヴィッツに位置する、キリスト教の教会建築である。
建築の設計は、スイス出身の世界的建築家「ピーター・ズントー」が担当。
傾斜地に建てられたこの小さな教会は、先端の尖った楕円形平面をしており、その平面から立ち上げられた滑らかな形態は、まるで方舟のような美しさを呈している。
そして、その方舟の壁面には、敷地周辺で伐採された木材の小さな板がうろこ状に張り付けられており、周囲の自然に溶け込むような外観を作り出している。
さらに、建物上部には、帯状のハイサイドライトも設けられており、内部空間に豊かな光をもたらす。
聖ベネディクト教会の建築的特徴
スイスの小さな村に建つ教会建築
スイスの中央部、アルプス山脈が横断する山岳地帯に位置する小さな村「Sumvitg(スンヴィッツ)」。
この村の傾斜地に、世界的建築家が手がけた教会建築がポツリと佇んでいる。
そう、この建築こそ今回紹介する「聖ベネディクト教会」である。
まるで船の船体のような滑らかな曲面を持ったこの建築は、スイス出身の世界的建築家「ピーター・ズントー」の代表作として知られている。
ピーター・ズントーの代表作
ピーター・ズントーは、建築界のノーベル賞とも言われる世界的権威のある建築賞「プリツカー賞」を2009年に受賞した、スイスを代表する建築家である。
ピーター・ズントーの設計スタイルは、普遍的なモダニズム建築に、地域固有の場所性(風土)を融合した「地域主義(リージョナリズム)」として位置づけられている。
そして、今回紹介する聖ベネディクト教会もまた、地域主義的な特徴が顕著に現れた建築作品となっている。
批判的地域主義に位置付けられる建築作品
批判的地域主義は、モダニズムが普遍性ばかりを追求したばかりに喪失してしまった、建築の地域性・場所性の復興を目的として提唱された建築運動である。
地域主義の一種には、地域固有の風土に基づいてデザインされた「ヴァナキュラー建築」という概念もあるが、批判的地域主義はこれとは異なる思想として区別される。両者の違いは、簡単に言うと下記のとおりである。
- ヴァナキュラー建築:地域固有の気候風土の中で培われてきた建築
- 批判的地域主義建築:モダニズムに場所性(風土)を掛け合わせた建築
上の写真を見てわかる通り、聖ベネディクト教会は、周囲の建物と同じ木材によって外壁が覆われているが、建物全体の形状は似ても似つかない特異な構成となっている。
この構成こそ、モダニズムの流れを尊重しつつ、そこに場所性を加味した批判的地域主義建築の特徴となる。
うろこ状に張り付けられた地場産木材
聖ベネディクト教会の建物全体には、敷地周辺で伐採された木材がうろこ状に張り付けられている。
このような地場産木材の使用は、周辺に建つ土着的な建物と聖ベネディクト教会の素材的な調和をもたらしつつ、荒々しい素材感によって建築に深みを与えている。
ピーター・ズントーは、秀逸な素材選びに定評がある建築家だが、その高い評価のきっかけとなった作品は、間違いなくこの聖ベネディクト教会だといえよう。
ステンレスと木材で仕上げられた内部空間
聖ベネディクト教会の内部は、ステンレスの仕上げ材の上に木材フレームが浮き上がった構成になっている。
外観の仕上げを見ると、てっきり内部も木材だけでまとめられているのかと想像してしまうが、ピーター・ズントーはあえてステンレスという現代の素材を用いることによって、意外性のある空間を生み出している。
さらに、壁面上部にはハイサイドライトが帯状に設置されており、内部には明るい光が差し込んでいる。