アラブ世界研究所とは?
- 設計:ジャン・ヌーヴェル
- 住所:フランス・パリ
- 竣工:1987年
- 用途:美術博物館・図書館など
アラブ世界研究所は、アラブ文化を紹介する施設として、1987年フランスパリの中央を流れるセーヌ川沿いに建てられた複合文化施設である。
この建物の建設にあたっては、1981年に国際コンペが行われ、当時まだ無名であったフランスの建築家「ジャン・ヌーヴェル」が最優秀賞を受賞した。
まだ無名だったジャン・ヌーヴェルの名を世界的に認知させた建築作品である。
建物全体は、ファサード全面がガラスで覆われた現代的な外観を示しているが、よく見てみると南側のガラス面には特殊な模様が入っている。
この模様は、イスラム美術伝統の幾何学的形態で構成された装飾模様「アラベスク模様」をモチーフにしており、アラブ世界に関する建築という要素を反映させたデザインとなっている。
一方で、この幾何学的模様には、カメラにも用いられる「自動絞り機能」が搭載されており、太陽の動きに連動して自動的に内部に入る光の調節をしてくれるという画期的な仕組みになっている。
アラブ世界研究所の建築的特徴
パリ・セーヌ川沿いに建つ現代建築
フランス・パリを横断するように流れる巨大河川「セーヌ川」。
そのセーヌ川の流域。近くにノートルダム大聖堂やポンピドゥーセンター、パンテオンといった歴史的建造物も佇む地域に「アラブ世界研究所」という現代建築が建っている。
この施設は、アラブ文化を紹介するための施設として1987年に竣工。美術博物館や図書館、レストランといった様々な機能が内包されている。
ジャン・ヌーヴェルの出世作
アラブ世界研究所の建設にあたっては、国際コンペが行われた。
そして、その国際コンペで最優秀賞を獲得したのは、当時まだ無名だったフランスの建築家「ジャン・ヌーヴェル」である。
ジャン・ヌーヴェルの名は、このアラブ世界研究所とともに世界に轟くこととなる。
ノートルダム大聖堂の軸線に合わせた切込み
アラブ世界研究所は、建物の中央に切れ込みが入っており、その切れ込みを境に建物の形態が異なっている。
切れ込みより北側(セーヌ川側)は、セーヌ川の湾曲に合わせたかのような曲面ファサードになっているが、一方で切れ込みより南側(街側)は、隣接するパリ第6大学の建物のファサードに呼応するような直方体型になっている。
建物の形態の変化点となっているこの切れ込みは、セーヌ川の中州に佇む歴史的建造物「ノートルダム大聖堂」とアラブ世界研究所をつなぐ軸線に合わせて入れられている。
一見するとシンプルな現代建築のようにも見えるアラブ世界研究所であるが、実は街並みのあらゆる要素を反映した結果得られた形態になっているのである。
南側ファサードを埋め尽くす「アラベスク模様」
アラブ世界研究所の南側ファサード。文字通りガラス面が下から上まで覆うその現代的なファーサードの表面には、特殊な模様が刻み込まれている。
この模様は、イスラム美術伝統の幾何学的形態で構成された装飾模様「アラベスク模様」がモチーフとなっている。
つまり、「アラブ文化を紹介する施設」という機能を最大限に反映させたデザインになっているというわけである。
しかし、この模様の存在意義はそれだけではない。
実は、この特殊な模様には、他にもある秘密が隠されている。
「カメラの自動絞り機能」を搭載したファサード
ファサードに現れていた特殊な模様を内部から見てみると、上の写真のように、まるで機械のようなメカニカルなつくりになっている。
実はこのガラスの中には、カメラなどによく用いられる光の量を自動調節してくれる機能「自動絞り機能」が搭載されているのである。
この機能は、太陽電池によって作動し、光の量が多い時には自動的に開口部が縮まり、光の量が少ない時には自動的に開口部が広がるようになっている。
建物のファサードにこのようなハイテクな機能を搭載させ、内部に豊かな光の空間をもたらしたアラブ世界研究所は、世界に衝撃を与えた。