ブラザー・クラウス野外礼拝堂とは?
- 設計:ピーター・ズントー
- 住所:ドイツ・ヴァッヘンドルフ
- 竣工:2007年
- 用途:礼拝堂
ブラザー・クラウス野外礼拝堂は、15世紀を生きたスイスの修道士「ブラザー・クラウス」を祭る礼拝堂として、2007年ドイツ西部の小さな村・ヴァッヘンドルフの外れに建てられた建築物である。
建築の設計は、スイスを代表する世界的建築家「ピーター・ズントー」が担当。
建物全体は、ミニマルな五角柱型の建築ボリュームがコンクリート打ち放しで仕上げられた構成となっており、周囲の環境に自然と溶け込むような落ち着いた外観を呈している。
一方で、ミニマルな外観とは対照的に、内部には112本の丸太をコンクリートの型枠として用いて形作られた、円錐型の礼拝空間が展開されている。
内壁面には112本の丸太の素材感がコンクリートに転写され、コンクリート建築なのに木材の温かみを感じる、魅力的な内部空間が生み出されている。
ブラザー・クラウス野外礼拝堂の建築的特徴
ドイツの小さな村の外れに建つ礼拝堂
ドイツ西部に位置する小さな村「Vachendorf(ヴァッヘンドルフ)」。
この村の外れ、周囲に障害物のない広大な農地の中に「ブラザー・クラウス野外礼拝堂」は建てられている。
この施設は、15世紀を生きた修道士「ブラザー・クラウス」を祭るための礼拝堂として、地元の農場経営者夫妻によって設計が依頼され、その設計はスイスを代表する世界的建築家「ピーター・ズントー」が担当した。
ピーター・ズントーの代表作
ピーター・ズントーは、建築界のノーベル賞として知られる「プリツカー賞」を2009年に受賞した、スイスを代表する世界的建築家である。
ピーター・ズントーの設計スタイルは、普遍的なモダニズム建築に、地域固有の場所性(風土)を融合した「地域主義(リージョナリズム)」として位置づけられている。
そして、ブラザー・クラウス野外礼拝堂もまた、地域主義的な特徴が顕著に表れた建築作品となっており、彼の代表作としても名高い。
レイヤーを持つコンクリート打ち放しの外壁
ブラザー・クラウス野外礼拝堂の外形は、非常にシンプルな五角柱型をしている。
そして、その五角柱の外壁は、コンクリート打ち放しで仕上げられているのだが、通常の打ち放し仕上げとは異なり、壁面にはコンクリートのレイヤー(層)が表出している。
このレイヤーは、約1年の時間を費やし、コンクリートを24回に分けて徐々に型枠に流し込むことによって生み出されたものである。
この手の込んだ仕事によって、コンクリートの壁に多様な表情が生まれ、親しみやすい外観を生み出している。
鋭い三角形をした玄関扉
ミニマルなファサードの一部に、鋭い三角形が浮かび上がっているのが見て取れるが、これは礼拝堂の玄関扉となっている。
この三角形の上部には、これまたミニマルな十字架が設置されており、その洗練されたデザインがより際立つ。
なぜ玄関扉が、このような鋭い三角形型をしているのかについては、内部空間を見るとおのずと答えが見えてくる。
112本の丸太を型枠にして形成された円錐型の内部空間
シンプルな五角柱型の外形に比べ、内部空間では、表面に凹凸を持った円錐型の荒々しい空間が展開されている。
この空間は、敷地周辺で伐採された112本の丸太をテントのように円錐型に組み建て、それを型枠にしてコンクリートを流し込む形で形成されている。
これによって内部の壁面には丸太の素材感がコンクリートに転写され、コンクリートなのに木材のぬくもりを併せ持った不思議な空間が生み出されている。
三角形の扉は、円錐型をした内部空間に対応した形だったのである。
ガラスが埋め込まれた壁面の穴
荒々しいコンクリートの表面には、丸太の型枠を固定するために生じた300余りの小さい穴が開いている。
この穴には、透明なガラスの栓がはめ込まれており、そこからは外の光をわずかに内部に浸透し、幻想的な内部空間を生み出している。
さらに、礼拝堂の天井を見上げると、そこには大きな穴が開いていることがわかる。
光を落とす天井の穴
礼拝堂の天井面には、水滴のような形態をした大きな穴があけられている。
この穴にはガラスなどは一切取り付けられておらず、雨が降ると内部にも水たまりができてしまうが、外の光を純粋な状態で礼拝空間まで届けることが可能となっている。
さらに、この穴から光が差し込むことによって、内部空間は洞窟のような神秘性のある空間が生み出されており、人々を魅了する、美しい礼拝堂空間が完成している。